-その野外調査・救護記録等における参照資料としての有用性-
会員の浅川満彦さんから、クマタカ生態モノグラフの書評の寄稿がありました。形態や生活史、個体群動態から保護管理に至るまでクマタカのすべてを詰め込んだ一冊を、野生動物医学の視点からご紹介いただきます。
高木憲太郎
クマタカ生態モノグラフ
クマタカ生態研究グループ 編著
出版社:平凡社
定 価:7,480円(税込み)
ISBN :9784582542707
頁 数:B5変形 432ページ

紹介者:浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授 / 野生動物の死と向き合うF・Vetsの会 代表)
私の専門は寄生虫病等感染症や法獣医学に軸足を置く野生動物医学でして、野鳥を直接対象にした者ではありません。したがって、この方面の優れたスペシャリストが集結されるバードリサーチのようなweb媒体でこのような駄文を寄せること自体、烏滸がましくとてもオドオドしております。されど本書・編著者クマタカ生態研究グループ代表の山﨑 亨先生からご依頼、機会を賜りました。まず、このような貴重な機会を下さった山﨑先生に、また掲載をご許可下さった本会各位に感謝致します(と、同時に、皆さんが上梓され、このような者でも紹介・評させて頂けるような高著がございましたら、是非、拝読させて下さい)。
さて、私は冒頭の専門領域を維持するため、約40年間、勤続した現役時代、“野生動物医学センターWAMC”という施設を文科省予算等外部資金により運営してまいりました。悲しいことに、私の2025年3月末の定年退職直前、運営停止(事実上閉鎖)となりました。しかし、この施設から巣立った人材が各所で活躍されていますので、必ずどこかで再興を果たすでしょう。
人材のお一人として、たとえば、釧路市動物園に勤務される 吉野智生 先生でバードリサーチの研究大会でも必ず参加・発表されておりますので、ご存じの方もいらっしゃるかと。その施設WAMCが獣医大にあったので、市民や環境省・自治体等から傷病生体や謎の死体が大量に運び込まれました。鳥類でしたら、学部生・院生・研究生時代の吉野先生で、その対応で大童でした。
その際、必ず行うことが個体に関する克明な記録、すなわちカルテ・試料記録簿の作成です。羽毛の状態ならば、栄養・ストレス・疾病・外部寄生虫等による変形・汚染・損傷・性や齢によって異なる概観の差異等です。
もし、若き吉野先生がWAMCの中で喜々としてそういった鳥たちと対峙していた頃、本書のような眼、嘴含む頭部、風切、尾羽の詳細画像満載の資料があればきっと有益だったでしょう。本書ではクマタカのみではありますが、他種猛禽でも「ああ、こういう感じで眺めるのだな」という“視点・センス”がその姿を堪能しつつ涵養されたはず。
また、WAMC運営は前述のように外部資金によると申しました。その資金の中には環境アセスメントを受託した名目上研究費として受けたものもありました。私自身は専ら獣系でしたが、私が顧問をしていた野生動物サークル員には助けてもらいました(そう言えば吉野先生もそのお一人でした)。体制側である私(=大学教員)は、嬉しく頼もしくはありましたが、犠牲(=留年・退学等)者が出ないかと心配していましたが…。双眼鏡をもった狩人も、本書の資料があればその精度はより高まったはず。もっとも、そのせいで出ずっぱりの学生時代となれば“犠牲者”の数はどうなっていたか…。
以上のように本書には大満足でした。クレームがあるとするなら、もう少し早く出版して欲しかった!


目次・概要
序/跋文・用語解説・引用文献等を除く本文は次の十二の章構成となる。これら章題(節・コラム)から共通の語クマタカを適宜除外し、短縮してリストアップする。
- クマタカとは(日本のクマタカ/重要性/生態的地位/世界のクマタカ/Column 文化)
- 調査概要(研究グループ紹介・変遷[グループのフィールド]鈴鹿山脈/調査方法/Column 人への攻撃例)
- 形態・生理(外見/体計測値/虹彩色/[頭部・風切り・尾の]羽模様の変化/換羽/体温呼吸数/血液性状/雛性比/Column クマタカの鳴き声/Column 風切羽・尾羽の見分け方/Column 瞬膜/Column 巣内雛捕獲時の反応)
- 生息場所(鈴鹿山脈におけるクマタカの分布/生息環境/営巣環境と営巣木/ハンティング環境/コアエリア内の野生動物/Column 営巣木からの景色/Column 人工林の伐採と繁殖活動の継続/Column 定点観察中に出会った動物たち
- 行動圏の内部構造
- 生活史(生活史序/産卵抱卵/雛の成長巣立ち/営巣場所周辺での成長/分散定着/日周行動と年周行動/死亡原因と寿命/Column アカマダラハナムグリ/Column 雛は巣で何してる/Column クマタカの起床時刻就寝時刻/Column クマタカの晩年)
- ハンティングと食性(ハンティング行動/食性/Column クマタカの巣にやってくる動物)
- ディスプレイと干渉行動
- 繁殖(繁殖開始年齢/繁殖行動と時期/卵/繁殖成功率/繁殖中断要因/ペア個体の交代/Column クマタカの喜怒哀楽/Column つがい外交尾)
- 個体群動態(個体群動態からみたクマタカの特徴/地域個体群/Column 第3の男と女-ペア以外に定着成鳥が存在)
- 最新の調査研究(遺伝的な集団構造と多様性/DNA分析からアプローチする獲物の種類/リモートセンシング技術を用いた環境調査/GNSS追跡とラジオトラッキング)
- 保護管理の提言-今後のクマタカ保護管理に必要なこと
浅川満彦さんの連絡先:
mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com

