春の季節前線ウォッチ結果:渡来が早くなった鳥たち

バードリサーチの設立とともにスタートした季節前線ウォッチは20年目を迎えました。季節前線ウォッチでは身近で識別のしやすい鳥を対象としてきました。今まで皆様のおかけでたくさんのデータ収集できています。ありがとうございます。2012~2024すべてのデータ(報告回数)を使用し、3種の初認日の分析をしました。その結果を報告します。

(1)ホトトギスとカッコウの初認日が前倒し?

ホトトギスとカッコウはほぼ同じタイミング,四月下旬に日本に渡来しています(図1)。感覚的には五月に入るとたくさん鳴き声が聞こえ始めます。しかし、月を上旬、中旬、下旬に細かく分けて見ると、ホトトギスとカッコウの渡来パターンには違いがあることがわかりました。

カッコウは、四月下旬・五月上旬から渡来、五月中旬にピークを迎えます。ピークになるまでの速度が速く、その後徐々に初認の報告は減少していきます。一方、ホトトギスも四月下旬・五月上旬から渡来、五月中下旬にピークを迎えます。

更にこの2種の年初認日(その年最初の初認報告日)・初認ピーク日(初認報告がいちばん多い期間)の経年変化を解析してみました。その結果、2種とも年を追うごとに年初認日が早くなる傾向を示しました(図2, A)。ただし調査参加者が増えたことにより早く見つかるようになった可能性もあるので、初認ピーク日の経年変化も分析したところ、カッコウのみ早くなる傾向を示しました(図2, B)。気象庁の平均気温を確認したところ、2023年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は+1.29℃で、平均気温の基準値が1898年の統計開始以降、2020年を上回り最も高い値となっています(気象庁)。したがって、初認日が早くなることは気候の温暖化と関係があるのかもしれません。そのため、長期的にモニタリングを続けていきたいと思います。これからも皆様のご協力をお願いいたします。

図1. カッコウとホトトギスの飛来時期。

図2. 年初認日とピーク日の経年変化。


(2)カッコウの飛来時期と托卵される種との関係は?

カッコウはオオヨシキリ、モズ、ホオジロ、オナガに托卵することが知られています。カッコウは宿主がいないと托卵することができないため、宿主の行動特性は、カッコウが巣を探す段階で非常に重要であり(Yang, 2017)、さらに宿主の行動特性の中でもカッコウにとっては鳴き声が重要だと思われます。なぜなら先行研究により、カッコウが宿主の鳴き声(例、警戒音)で巣を特定することが示されているからです(Marton et al., 2019)。それらの研究背景を踏まえて、カッコウの飛来認識日は宿主の鳴き声が最もよく聞こえる日になっているのではないかと考えるようになりました。ちょうど春の季節前線ウォッチでは、カッコウとオオヨシキリが観察対象になっています。それで、カッコウの飛来年初認日はオオヨシキリとの飛来時期の関係を調べてみました。まず、下の3つのタイミングを定義しました:

  • 飛来年初認日:その年に初めて飛来情報が記録された日;
  • 飛来ピーク日(最初):飛来記録がピークになった日;
  • 飛来ピーク日(最後):ピークは何日も続ける場合も多くあるため、記録が下がる前の最後に飛来記録がピークになった日も定義しました。

次に、以上の3つのタイミングに対して二つの差を計算しました:

  • カッコウの飛来年初認日とオオヨシキリの最初ピークになった日の差;
  • カッコウの飛来年初認日とオオヨシキリの最後ピークになった日の差

そして、線形モデルを用いて日の差は経年変化したかどうかを解析しました。

その結果、明確な関係は見つかりませんでしたが、二つ日の差が小さくなることが多い傾向があることがわかりました。図3は、カッコウの初認日とオオヨシキリの最初および最後のピーク日の差を示しています。棒が短いほど間隔が短く、0より小さい場合はカッコウがオオヨシキリのピーク日より早く飛来したことを意味します。図3のピンク色で示されている2016年、2018年、2019年、2020年のカッコウは、オオヨシキリが飛来するピークが始まった直後に飛来したことがわかりました。特に2020年には、カッコウがオオヨシキリの飛来ピークの最初日と最後日より早めに現れたことが確認されました。

カッコウがオオヨシキリの飛来ピークの最初日および最後日より早めに現れたことは初めての発見です。2019年以前の結果を確認してみますと、オオヨシキリの飛来ピーク日(最後)から平均10日後にカッコウの初認日と示しています(図3)。ですが、2016年、2018年、2019年、2020年にカッコウはより早く到着しました。近年では地球温暖かにより生き物間のミスマッチ[1]がホットトピックになっています。では今回、カッコウの飛来日とオオヨシキリの飛来ピーク日のずれはまずミスマッチでしょうか、もしミスマッチであれば繫殖の成功率に影響を与えるでしょうかといういろいろな疑問も生じました。従って、もっとはっきりしたカッコウの飛来初認日とオオヨシキリの飛来時期の関係が分かれば、地球温暖化などの変化がどう鳥に影響を及ぼしていたのかについて役に立つと思います。まだそれほどデータがないため、皆様に季節前線ウォッチへのご協力をお願い申し上げます。

図3. カッコウとオオヨシキリ飛来タイミングの差。上, カッコウの飛来年初認日とオオヨシキリの最初ピークになった日の差;下, カッコウの飛来年初認日とオオヨシキリの最後ピークになった日の差。

引用文献

Canchao Yang, Longwu Wang, Wei Liang, Anders Pape Møller, How cuckoos find and choose host nests for parasitism, Behavioral Ecology, Volume 28, Issue 3, 01 May-June 2017, Pages 859–865, https://doi.org/10.1093/beheco/arx049

Marton, A., Fülöp, A., Ozogány, K. et al. Host alarm calls attract the unwanted attention of the brood parasitic common cuckoo. Sci Rep 9, 18563 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-54909-1


[1] 気候変動などの影響の出方は、生物によって異なります。例えば繁殖のタイミングがいつもより早まり、托卵鳥と宿主の繁殖のタイミングがずれることを、ここではミスマッチと呼びます。